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| ■柱からずれ、一般道に落下した阪神高速道路(西宮市) | ■道路に落下した橋架橋(灘区) | |
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| ■ガレキの山と化した民家(長田区) | ■旧耐震基準で建てられたマンション(西宮区) | |
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撮影:目黒公郎 ©Kimiro Meguro
*より専門性の高い監察医が扱ったデータに基づく評価。臨床医も含めたデータでは80.5%
下の図は、兵庫県南部地震によって地震発生後の2週間以内に神戸市内で亡くなった犠牲者3,875名のうちの3,651名(2,416名は監察医による調査、1,235名は臨床医による調査)について克明な調査を行った結果です。
■犠牲者の死亡推定時刻
(神戸市内・地震後2週間まで) 出典/兵庫県監察医調査
加筆/東京大学生産技術研究所 目黒研究室

より専門性の高い監察医のデータを対象とすると、地震の発生時間が5時46分ですから、実に発生後15分以内の6時までに約92%※の方が息をひきとっています。これは揺れですぐに建物が壊れたり、家具の下敷きになったりして亡くなったことを示しています。臨床医のデータを含めても14分以内に亡くなった方は8割以上となります。
この数字は火事で骨だけになってしまい、直接の原因や死亡時刻が特定できないなどのケースを除くとさらに高くなります。「レスキュー隊がもっと早く着いていれば」なんていう人がいますが、9割以上が助けを待つこともなく直後に自宅で亡くなっているのです。
■犠牲者の死因
(神戸市内・地震後2週間まで) 出典/兵庫県監察医調査
加筆/東京大学生産技術研究所 目黒研究室

阪神・淡路大震災というと、よく「圧死がこわい」といいます。
しかし、神戸市内の犠牲者の原因を克明に調べると、圧倒的に多いのは呼吸ができなくなって亡くなった「窒息死」で53.9%を占めています。次が多臓器不全などにつながる「圧死」で12.4%。その他「頭部損傷」などを含め、建物もしくは家具が原因で亡くなった方が、83.3%を占めます。
火災が直接原因の犠牲者は12.2%を占めます。火災が原因とはいってもごく少数の例外を除いて、ほとんどの焼死者は被災した建物に閉じこめられて逃げられなかった方で、これも建物が壊れたことが原因です。両方を合わせると、実に95.5%の方が建物・家具が原因で亡くなっているのです。
衰弱・凍死が原因となった方が0.2%ありますが、これは避難所に食料が行き渡らなかったためではありません。建物や家具の下敷きになり声が出せず、救助を呼べなかったためで、これもまた建物が原因といっていいでしょう。

■犠牲者の年齢分布(神戸市内・地震後2週間まで)
出典/西村明儒、山本光昭、泉 陽子、上野易弘、龍野嘉紹、わが国の災害医療対策の新たな構築に向けての法医学的検討─阪神・淡路大震災における死体検案結果を中心に─、厚生の指標42(13)、30-36、1995.

犠牲者の年齢分布を見ると、半数はお年寄りが占めています。
その原因は、
(1) 足腰が弱く機敏な行動がとれなかったこと
(2) 古い家屋に住んでいる人が多かったこと、
(3)
足腰が弱いので通常1階に生活し、地震の発生時には1階で寝ている人が多く、木造建築が1階から崩壊した
ことが挙げられます。
さて、もうひとつ大きな山を示しているのは、20代前半です。
若く体力があるはずの20代前半になぜ犠牲者が多いのでしょうか。その大半は学生や社会に出たばかりの若い世代で、耐震性能の低い建物、いわゆる安アパートに住んでいたことが原因です。

兵庫県南部地震の被害が大きくなった理由に、レスキュー活動の遅れがよく挙げられます。消防隊や自衛隊が現地にもっと早く到着していれば多くの人が助かったのではないか?という指摘です。 確かに消防隊や自衛隊によって救出される(掘り出される)人は、時間の経過とともに体制が整うので数の上では増えていきますが、生存者はどんどん減っていきます。これは兵庫県南部地震以前から指摘されていることで、“最初が肝心”という意味で「ゴールデン24アワーズ」と呼ばれています。それでも被災後3日目ぐらいまでは生存者発見の可能性が高いということで、“レスキューは何より人命救助優先”とされ、この時間帯を「ゴールデン72アワーズ」と呼んでいます。
■消防隊と自衛隊によって救出された人々と生存率
出典/Comprehensive Study of the Great Hanshin Earthquake,
United Nations Center for Regional Development (UNCRD) Report
Series No. 12, 243p, 1995

しかし、細かく検証していくと、いくらレスキュー活動がスムーズに進行しても被害を軽減することは難しかったことがわかってきます。
(1)地震直後の14分間で約92%が死亡→いくら早く到着しても間に合わない。
被災直後は「2日目の時点で死亡した方のうち7割は生きていたのではないか?」といわれていましたが、先ほどお話したように詳しく検証すると、「地震直後の14分間で約92%の方が亡くなっている」というのが現実です。
これでは、消防隊や自衛隊がいくら早く到着しても助けることはできませんでした。
(2)被害規模の大きさ→全国から消防隊や自衛隊をかき集めても対応不可能
兵庫県南部地震の被災家屋は、全壊で約10万5,000棟、半壊が約14万5,000棟、合計で25万棟にも上ります。一部損壊の約39万棟を加えると、約64万棟にもなります。
火災は、全焼が7,036棟、半焼が96棟で、合計約7,100棟です。 それに対して、消防士は全国で約15万人、陸上自衛隊の隊員は約15万人、合わせても30万人しかいません。倒壊家屋数・火災件数ともに、全国の隊員が瞬時に集結したとしてもこれでは手の打ちようがありません。
(3)
市民の手で崩れた家から救出された人も多い。 →火災の初期消火ができない原因に
確かに市民の手で掘り出された人は、消防隊や自衛隊によって掘り出された人の約3倍に相当します。
しかし、壊れた建物から人を掘り出していた時間を火災の初期消火にあてれば、もっと火災被害は少なかったはずです。そもそも建物が壊れなければ、危険な素人のレスキューは必要なかったのですから。
■市民による救助者数と警察・消防・自衛隊による救助者数の対比
出典/河田恵昭:大規模地震災害による人的被害の予測,自然災害科学,Vol.16,N.1,pp.3-14,1997

◆阪神・淡路大震災による火災被害
出典/平成18年5月19日消防庁発表「阪神・淡路大震災について」(確定報)より抜粋
■延焼する市街地(長田区)

■時間帯別火災発生状況(神戸市内・17日中に発生)
出典/神戸市消防局データ/1998年発表の(財)消防科学総合センターより引用

地震直後から、被災地では火事が多発し被害を広げました。震源に近い神戸市内では、地震の当日だけで約100件の火災が発生しました。特に地震直後の15分以内に、50件以上もの火災が集中して発生しています。
ああしていれば、こうしていれば、火事が防げたのではないかと、さまざまな反省が挙げられていますが、実態はどうなのでしょうか?
でも…
人口150万人の神戸市では平時には1日平均2件前後の火災が発生しています。一方神戸市の公的消防力は、火災の規模にもよりますが、同時に4〜5件の火災に対して対応可能です。つまり十分だということです。地元消防団を加えれば、さらに多くの火災に対応が可能です。
ところが、すでに説明したように、兵庫県南部地震では初日に100件の火災、しかも直後の15分間に50件以上の火災が発生しているのです。もはやこれだけの数の火災には、公的な消防力や消防団の力だけでは対応は到底不可能です。
もちろん、この様な状況にまで対応できる公的消防体制を整えておくことも、発生頻度や財政的問題を考えれば、まったく現実的ではありません。
火災の対応には、火災の規模に応じた効果的な対応法があります。
下の表に示すように、火災対応には火災の規模に応じた効率のよい適切な対応法があります。一坪以下の火災には市民による自主消火が最適です。消防士や消防団による消火活動が効果的なのは、100〜300m2つまり住家1軒とか2軒とかいう規模です。
■各種防火対策との有効限界と組み合わせ
出典/1997年保野健治郎ほかに東京大学生産技術研究所 目黒研究室が加筆

1 多数の被災建物の下敷きになった人々の救出活動を優先し、初期消火活動が後回しになった
2 倒壊など、被災建物の下や中からの出火に対する消火活動は、一般市民には困難である
3 崩壊家屋によって道路閉塞が発生し、火災現場に近づけない
4 消火活動は消防士がやってくれると思い、初期消火のタイミングを逃した
4は教育で改善が図られるとしても、1〜3は全て壊れた建物が原因だったのです。
1923年の関東地震(マグニチュード7.9、この被害を総称して関東大震災)は、犠牲者・行方不明者約10.5万人という被害をもたらしました。現在より人口密度が高く、木造家屋が多かったため、旧東京市(東京23区の中心部)内で多数の火災が発生し、それが延焼火災となり、全市の約43%を焼失しました。
| ■鎌倉大仏 前方へ南十五度東に一尺辷り下方に一尺七寸落込む (国立科学博物館蔵) |
■銀座(国立科学博物館蔵) | |
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■関東大震災による旧東京市内の火災の広がり
出典/1925年震災予防調査会報告に東京大学生産技術研究所 目黒研究室が加筆

上の図は、延焼火災が拡大していく様子を示しています。これと最近判明してきた各地の揺れや被害のデータを重ねて分析してみると、次のような図ができました。
■関東大震災の出火点と建物被害(震度の高かった地域)の重ね合わせ
出典/2003年武村雅之に東京大学生産技術研究所 目黒研究室が加筆

私の研究室で火事の発生状況と、建物の被害状況から判定した震度の分布と重ね合わせてみると、非常に重要な特徴が浮かび上がってきました。
●建物被害の大きな地域の出火率は被害率の低い地域に比べて高い。
●建物被害の大きな地域の延焼率は被害率の低い地域に比べてさらに相対的に高い。
●建物被害の大きな地域は直後から延焼した。
●建物被害の大きな地域の直後からの延焼火災の種火は自分の地域で発生したもの。
●建物被害の軽微な地域の延焼火災は、被害の大きな地域よりも後から、主に他の地域の種火を原因として発生した。
ということがわかりました。
つまり、建物の耐震性が高く、振動による建物被害を減らすことができれば、初期出火数を大幅に減少できたのです。また仮に出火しても、消火活動の条件がよくなるので、初期消火が可能になり、延焼火災はさらに大幅に減らすことができたことがわかります。
兵庫県南部地震の事例と比較してみましょう。
■関東地震(関東大震災)と兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)の延焼火元件数の比較
出典/1998年消防庁震災対策指導室:調査検討報告書に東京大学生産技術研究所 目黒研究室が加筆

どちらの場合も建物被害の大きな地域(震度が高い地域)は、延焼火災の火元件数が多かったのです。

兵庫県南部地震の後には、繰り返し、内閣総理大臣への被害情報の早期伝達の問題や、消防や自衛隊の出動体制の不備、食料や水の不足、医療体制の不備等がメディアに取り上げられました。もちろん、そういったことは大切ですし、今後も取り組んでいく必要があるでしょうが、地震による犠牲者を減らすという防災の最大目的を考えると優先順位は明らかです。
一般的な誤解の例を挙げてみましょう。
防災というと、まずは水や緊急食料の確保を思い出しますが、水や食料が無くて亡くなった犠牲者は全体のわずか0.2%。しかも本当の理由は水や緊急食料の不足ではありません。0.2%を占める衰弱死は、壊れた建物に閉じこめられた状態で時間が経過し、衰弱したのです。これもやはり建物被害が原因です。
阪神・淡路大震災では救援物資が問題になりましたが、それが届かないことが直接的な原因で亡くなった方はいませんでした。
今後想定されている大都市直下型の地震や、南海トラフ沿いの巨大地震が起これば、物資が足りなくなり、被害をさらに広げる事態も考えられるので、食料や水などの物資の確保も大切ですが、その前にやはり建物の問題があるのです。
最も被害の大きかった長田地区はいわゆる下町で、地域コミュニティが良好だった地域です。この地域でも被災後の助け合いはできましたが、直後の犠牲者を減らすことはできませんでした。最も大きな理由は、この地域に脆弱な建物が多数存在していたことが挙げられます。
犠牲者の死亡推定時刻と倒壊家屋の数や消失家屋から考えると、自衛隊や消防隊に過度に期待するのは無理です。
また、兵庫県南部地震以後、日本の救助犬によるレスキュー隊は、海外にもたびたび出動していますが、生きている方を救出できたケースは極わずかです。
よく倒壊した建物から何日も経て助け出された人がニュースになりますが、それは奇跡に等しいほどまれだからです。
★新潟県中越地震
2004年(平成16年)10月23日(土)17時56分、新潟県のほぼ中央に位置する中越地域を震源として発生したマグニチュード6.8の直下型の地震。
北魚沼郡川口町や小千谷市では気象庁震度階最大の震度7を観測した。
同日18日11分にもマグニチュード6.0の地震が発生した。
●死者 : 63人
●負傷者 :4,805人 (重傷636人・軽傷4,169人)
●全壊:3,175棟
●半壊:13,785棟
●一部破損:104,817棟
●9件
出典/平成18年6月9日消防庁発表「平成16年(2004年)新潟県中越地震についてについて」(第59報・暫定)より抜粋
■新潟県中越地震で倒壊した家屋:1階を店舗や車庫などに使っている古い建物が壊れている

撮影:目黒公郎 ©Kimiro Meguro
兵庫県南部地震に勝るとも劣らぬ激しい揺れが被災地を襲ったが、家屋の全半壊数はおよそ17,000棟と、山間部で人口が密集する地域ではなかったことを差し引いても非常に少ない。
阪神・淡路大震災並の激しい揺れでしたが、被害ははるかに少なかったといえます。
(1) 豪雪地帯のため、重い雪に耐えられるよう太い柱や梁をもった家が多かった。
(2) 防寒のため、窓などの開口面が小さく、結果的に壁量の多い家が多かった。
(3) 雪降ろしのため、スレートやトタンなど軽い屋根の家が多かった。
(4) 積雪や地盤の凍結を想定し、大きく強固な基礎の家が多かった。
(5) 寒冷地であるため、シロアリの被害が少なかった。
→上の(1)から(5)は、直接的には地震を意識した対策ではなかったが、結果的に地震に対して非常に強い建物を実現していた。倒壊したのは、1階に店舗があったりして開口部が広く、老朽化が進んでいた建物が中心。
■新潟県中越地震にも耐えた雪国仕様の住宅

撮影:目黒公郎 ©Kimiro Meguro
強い建物に住むだけで安心してはいけません。
地震が起こると建物は大丈夫でも、今度は室内の家具やガラスが凶器となります。
これは耐震設計のマンションなどに住む方にも同様に気を付けていただきたいことです。
阪神・淡路大震災で犠牲となった方の原因には、大型のテレビや家具の下敷きになった例なども多数見受けられます。また、負傷した方の原因は、家具や電化製品の下敷き、ガラスや金属などの破片によるものが7割以上を占めています。
■阪神・淡路大震災の負傷原因
出典/兵庫県宝塚市、川西市、および西宮市の一部地域の120世帯とその世帯員277人を対象として実施した調査
調査期間/1996年1月15日から2月22日の期間「阪神大震災による建造物の損壊と負傷に関する実態調査委員会より」

地震被害を最小限に留めるためには、
特に兵庫県南部地震のように就寝中に発生した場合は、倒れてくる家具や電化製品から逃げることは不可能と考えた方がいいでしょう。
日頃から家具は転倒しないように、ガラス類は飛散しないようにしておくべきなのです。
(1) 大型の家具はビルトインが理想
大型の家具は、ウォークインクローゼットやシステムキッチン組込型の食器棚を選ぶなど、できるだけ建物に納める形の設計をする。
(2) やむを得ず大型の家具を置く場合は、配置に注意
ふだん寝ているところには、倒れてこない位置に配置する。
テレビなどの重い家電製品の配置にも注意する。
(3) 家具には適切な転倒防止策を施す
衣装タンスや食器棚などには、信頼できる転倒防止器具を適切な方法で設置する。
(4) 耐震設計のマンションは特に家具に注意!
耐震性の高いマンションでも、上層階では、一般に揺れが増幅され、地上よりも激しく揺れます。構造的な被害は無くても、室内の家具や家電製品などはより激しく揺れ倒れやすくなるので、注意して家具を配置し、適切な転倒防止策を施してください。
(5) ガラスのある場所、家具に注意する
割れる危険のある窓ガラスの近くでは眠らない、食器棚などには揺れても扉が開かない留め具などを設置しておく。
窓ガラスは物があたっても割れにくいものを利用するか、飛散防止フィルムを貼ってガラス片が飛び散らないようにする。
耐震基準を満たす地震に強い家に、建替え・新築・耐震補強してください。
(2) 家具や電化製品の転倒を防ぐ。
転倒を防ぐ留め具などを適切に取り付けてください。衣装ダンスなどの大型の家具の近くを就寝場所としないことも大切です。
窓ガラスは、割れにくいものを使うか、飛散防止フィルムを貼ってください。
(3) 定期的なメンテナンスで建物の強さを維持。
メンテナンスを怠ると住まいの耐震性能は低下します。
必ず定期点検を行い、必要なら補修をしましょう。
メンテナンスは、耐震性能を維持するだけでなく、家そのものの資産価値を維持することでもあるのです。
なぜなら…
○家が壊れなければ、95%の人は助かった。
○初期出火も減り、初期消火ももっとできたから、延焼火災は大幅に防げた。
○被災建物数や犠牲者が少なければ、被災後の支援活動もスムーズに進んだ。
壊れない家に住むこと。これは地震被害全体を左右する大きな要因なのです。